まずはこちらの2つのチャートだ。
同じ時期のドル円とポン円のチャートで、この時は2つのチャートのどちらが期待値が高いだろうかと思って観察していた。


ドル円から見ていく。認識としては全体が横揉みの中にあって高値を抑える上位のMAや黒チャネルラインが見えている場面だ。
水色の波で5波が終わった所赤枠からのロングエントリーを検討していた。
もう一つのポン円は水色5波が終わって、トレラン抜けの1波2波を観測した所でドル円と同じタイミングとなる赤枠からのロングエントリーを検討していた。
ドル円はオレンジ波の5波を想定していたので、実質的に水色5波Wトップのような形をイメージしていた。もちろん抜けていく可能性もある場面だが、Wトップになるのではという疑念が強かった場面だ。
その疑念が出た理由は緑水平線の戻り高値の上抜け感が弱いのではないかと感じたからだ。
対してポン円は全体が上昇トレンド中で、トレンド方向への3波狙いができる場面というところで非常にストレスが少なかった。
こうした2つの通貨ペアを観察している時に、どちらを選ぶのが期待値として高いと言えるだろうか?
つまり5波狙いと3波狙いの期待値の違いの話である。
ここで表題のプロスペクト理論の話と絡めていく。
この理論は行動経済学の理論で、人がリスクを伴う選択をするときに「合理的ではないバイアスが働く」ことを説明したものだ。
最重要ポイントは3つある。
- 損失回避性
人は「利益の喜び」よりも「損失の痛み」を強く感じる
→損失を避けようとするあまりに判断が歪む - 確率加重
起きる確率が低い事象を「過大評価」しやすい
→めったに起きない反転の形を必要以上に恐れる - 参照点依存
人は現在のポジションや直前の値動き、直前の判断などを基準にして判断してしまう
→エントリー前の印象に引っ張られる
今回のケースではどちらも2波底あるいは4波底からのロングで結果として方向はあっていたし、構造的には3波完成となるチャート進行だった。
しかしドル円は5波Wトップを警戒し、ポン円は3波上昇を信じられた。
この思考の差にプロスペクト理論が適用される。
ドル円のエントリー直前に、下落の押し目の深さ、上昇の失速感、見えていた高値の壁(=Wトップの形)
これらが “損失を避けたい” という本能を刺激した。
結果→めったに起きないWトップ反転を「起きそう」と感じてしまった。
WトップやWボトムは天底で見られる形であって、トレンド中に現れるそれはフラッグやレンジの形ということで定義づけしている。
特に今回は緑水平線の戻り高値を超えているので下降トレンドから上昇トレンドへの転換も果たしていた。
確率加重で考えると、プロスペクト理論によれば、人は「低確率の損失」を必要以上に恐れるとされている。
Wトップで反転する確率は実際には低かったのに、“もし今回だけ反転したらどうしよう…”という思考が膨らんだことになる。
また緑水平線の上抜け=トレンド転換が弱いのではないかと感じていたことにより参照点依存が高まり、弱気シナリオを強く意識してしまった。
こうした理由を踏まえると、「転換のサイン=戻り高値超えが弱いので5波Wトップになるのではないかと思った」という思考がトリガーとなって、期待値を低く見積もることとなった。
対してポン円は形として綺麗で上昇余地が明確であることから期待値を適正に判断することができていたということになる。
また波の構造から照らした際の期待値についても考えることができる。
3波を狙うトレードの方が、圧倒的に期待値は高いと言える。
■ 期待値 = 勝率 × リスクリワード
期待値を決めるのはこの2つ:
1.勝率(方向性が正解する確率)
2.RR(伸びる距離/損切り距離)
これをドル円の「水色5波」とポンド円の「黒+赤3波」に当てはめると、両方とも決定的に違うポイントがある。
■5波狙いは勝率が低く、RRも低い
・ドル円の水色5波
→オレンジ上昇3波をつけた後の「最後の伸び」
→市場の買いエネルギーが最も枯れやすい天井圏という領域
→利確勢・逆張り勢が増えてくるポイント
つまり、5波はトレンド末期に発生する波動と言える。
・5波狙いの特徴
→方向性の優位性が下がる(勝率↓)
→伸びてもわずか(RR↓)
→逆行すると一気に深い押しが入ることがある
5波狙いというのは基本的に最後の伸びしろに期待するというトレードなので波動の構造的に根拠が弱いのである。
■3波狙いは勝率が高く、RRも圧倒的に良い
・ポン円の3波とは
→トレンドの1波2波のあとにくるトレンドの本命というべき波
多くのトレーダーが狙っている波で、最も注文が集中する箇所となる。
・3波狙いの特徴
→方向性が明確(勝率↑)
→エネルギーが強く、一気に伸びる(RR↑)
→調整が終わった直後なので損切りが近い(RR↑)
→理屈がシンプルで迷わない
■ ③ 5波 vs 3波の本質的な違い
トレンドの各波動はそれぞれの波によって市場参加者の心理が変化する
| 波動 | 市場参加者の心理 | 期待値 |
| 1波 | 「反転かも?」誰も確信できない | 中 |
| 2波 | 押し/戻りの調整 | 中 |
| 3波 | 全員がトレンドを確信し始める | 最高 |
| 4波 | 伸びた後の調整 | 中 |
| 5波 | 利確勢・逆張り勢が大量発生 | 低 |
以上のことから、3波と5波はそもそも期待値が大きく違うことになる。
実践的なトレード検討の中では、ドル円とポン円の2つを共にロングで検討しているとする。
環境認識の時点でドル円の買い戦略はプロスペクト理論が働いてしまい、小さなオレンジ波の5波Wトップという弱気シナリオが強く意識されている。
対してポン円はシンプルな3波上昇をメインシナリオに据えることができている。
こうした時に、波形の構造的にも3波狙いのポン円の方が期待値が高いことから、トレードするペアを片方に絞るとすればポン円を選択することが正しいといえる。
仮に2つのペアにそれぞれエントリーすることを検討していたとすれば、ポン円はそのまま3波狙いの単発エントリーとし、ドル円はオレンジ波5波到達ポイントで分割決済してしまえばいい。
そして分割した残りの方はストップを建値に移動した上でポン円と同じような規模の3波形成を観察すればいいということになる。
トレーダーとしては自然な成り行きの分析をしているようでいて、その前提となる環境認識の時点でプロスペクト理論の影響を受けているということを肝に銘じるべきだ。
自然な分析、自然なトレードをしているつもりでも、本来の分析精度が損なわれていることは、トレードの選択やその戦略に至るまでパフォーマンスを下げてしまう。
これが、過去チャートによる分析ではうまく対処できているというのに、実際のトレードではうまくいかない理由だ。
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